オンライン診療
    • ドクターコラム

肝斑の内服は本当に危険?トラネキサム酸の私の見解。血栓リスクについて形成外科専門医が解説

わたしは肝斑に対して内服治療賛成派です。

肝斑のある患者様へまずご提案するのが「トラネキサム酸の内服」です。

 

しかし最近、患者様から「SNSで『トラネキサム酸を飲むと血栓ができるから危険』という投稿を見て不安」「肝斑の内服を出す医者は危ないと言っている人がいたのですが、本当に飲んでも大丈夫ですか?」「トラネキサム酸は血栓ができるから飲みたくない」というご質問をいただくことが目立つようになりました。

インターネットやSNS上では、時にインパクトを狙った極端でセンセーショナルな情報が拡散されがちです。

私自身は肝斑治療におけるトラネキサム酸の内服に明確な「賛成派」です。

トラネキサム酸は半世紀以上にわたり日常臨床で広く使われ、データの蓄積は多く、安全性が高い薬剤だと思っています。

肝斑に対しても世界で確立されている治療法です。

なので、わたしは賛成。

では、なぜ血栓ができるからダメと言う人がいるのでしょうか。

どうして私は賛成するのか、と言うことも含めて、添付文書の事実や薬理作用、学術研究データを交えて分かりやすく紐解いていきます。

 

添付文書の事実:「重大な副作用」に血栓症の記載はない

「トラネキサム酸を飲むと血栓ができる」と信じている方の中には、それが添付文書上(薬の説明書)の重大な副作用として記載されている、と思っている人もいるようです。

しかし、一次情報である医療用医薬品の添付文書(トランサミン錠など)をいくら確認しても、「重大な副作用」の欄に「血栓症」という記載はありません。

添付文書で血栓に関連する文言が登場するのは、副作用欄ではなく以下の箇所です。

  • 「禁忌」の項目: トロンビン(血栓を形成させる止血剤)を投与中の患者
  • 「特定の背景を有する患者(慎重投与)」の項目: 脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎などの血栓症がある患者、あるいは血栓症があらわれるおそれのある患者

添付文書が警告しているのは、「すでに体内に存在する血栓を安定化(持続)させてしまうおそれがある」という点です。

できてしまった血栓を持続させる恐れがある=血栓を作る

とはなりません。

 

薬理作用の誤解:トラネキサム酸は「血栓を作る薬」ではない

この誤解を解くには、トラネキサム酸が体の中で何をしているのかという「作用機序」を知る必要があります。

私たちの血液は、出血が起きると「凝固系」が働いてフィブリンという網を張り、血栓を作って血を止めます。そして傷が治ると、今度は「線溶系(プラスミン)」という酵素が働き、役目を終えた血栓をきれいに溶かして流します。

トラネキサム酸は、この「溶かす酵素(プラスミン)」の働きをブロックする「抗線溶薬」です。

つまり、トラネキサム酸は「血を固めるスイッチ」を押す薬ではありません。「できた血栓を溶けにくくする薬」なのです。

そのため、血管が健康で血液が正常に循環している健常者において、トラネキサム酸を内服したからといって血管の中に勝手に血栓が新生することは、薬理学のメカニズムから考えて起こりにくい現象だと私は考えます。

さらに、肝斑治療で用いる量は1日250〜750mg程度と、本来の止血目的で使われる高用量に比べて「低用量」である点も、安全性を語る上で重要なポイントです。

 

561名を対象とした大規模研究が示す「0.18%」の真実

理論上はそうでも、実際の臨床現場ではどうなの?」という疑問に対しては、アジア人を対象とした信頼性の高い大規模研究データが存在します。

  • 561名の肝斑患者を追跡したコホート研究(Tan AWM, et al. J Am Acad Dermatol. 2016)
    シンガポールで行われたこの研究では、肝斑に対して低用量トラネキサム酸(500mg/日)を投与した561名の患者を詳細に追跡しました。
    その結果、89.7%の患者に明確な肝斑の改善が認められました。
    そして多くの方が不安視する血栓症(深部静脈血栓症:DVT)を発症したのは、561名中わずか1名(約0.18%)でした。

さらに重要なのはここからです。その発症した1名は「先天性プロテインS欠乏症」という、生まれつき血液が非常に固まりやすい遺伝的素因を元々持っていました。

つまり、背景に特殊な遺伝疾患がない健常者において、適切な低用量内服で血栓症が起こる可能性は「極めて稀」であることが、客観的なエビデンスによって証明されています。

 

ただし例外:低用量ピルとの併用は避けるべき

「安全性が高いから誰でも気軽に飲んでいい」というわけではありません。私が明確に処方を避けているのが「低用量ピル(経口避妊薬)を内服中の方」です。

アメリカのFDA(食品医薬品局)の添付文書においては、トラネキサム酸とホルモン避妊薬(ピル)の併用は「禁忌」に指定されています。(日本の添付文章には記載されていません)

低用量ピルに含まれるエストロゲンには、肝臓での凝固因子産生を増やし「血栓を作りやすくする」作用があります。そこに「血栓を溶けにくくする」トラネキサム酸が加わると、理論上、血液凝固と線溶阻害の相加リスクが生じてしまうためです。

そのため当院では、

  • 低用量ピルのんでいる
  • 血栓症の既往や素因がある
  • タバコ

に対しては、トラネキサム酸の内服は控えています。

その場合は、徹底した摩擦ゼロのスキンケアや外用薬など可能な治療を選択します。

 

過剰に恐れず、医師の管理下で正しく使う

肝斑は、レーザーや光治療などの熱・摩擦刺激を与えるとメラノサイトが過剰反応し、かえって濃く広がってしまう厄介な性質を持っています。

だからこそ、内服によって炎症とメラニン生成シグナルを落ち着かせることは重要です。

低用量トラネキサム酸ほど高い効果と長年の安全実績を持つ治療薬は他にありません。他に変わりがあるのであれば検討してもいいと思いますが、変わりがないんです。

「血栓ができるから絶対に飲むな」という極端な言葉に惑わされる必要はありませんが、自身の判断で個人輸入などで安易に飲むこともまた避けるべきです。

全身の健康状態やお薬の飲み合わせを医師がしっかりと確認した上であれば、トラネキサム酸は肝斑治療の最善な方法だと私は考えています。

※2026年9月執筆時点での私個人の見解です。今後、新たなエビデンスの出現により変わる可能性があります。トラネキサム酸は薬ですので内服の可否については必ず信頼できる医師と相談の上判断してください。

 

 

執筆者:西記念神戸アカデミア美と健康のクリニック院長 木谷慶太郎

形成外科専門医 木谷慶太郎

日本形成外科学会 形成外科専門医

日本美容外科学会JSAPS 正会員

日本創傷外科学会会員 正会員

日本レーザー医学会 正会員

日本抗加齢医学会 正会員

アラガン社 VST(ボトックスビスタ)認定医

アラガン社 ヒアルロン酸バイクロスシリーズ注入認定医

経歴

  • 2010

    長崎大学医学部医学科卒業

  • 2010

    六甲アイランド甲南病院 初期臨床研修

  • 2012

    小野市民病院形成外科(現:北播磨総合病院)

  • 2013

    姫路赤十字病院形成外科

  • 2014

    神戸大学医学部付属病院形成外科

  • 2020

    西記念神戸アカデミアクリニック 

  • 2023

    ルネッサンス美容外科神戸院 院長

  • 2025

    西記念神戸アカデミア美と健康のクリニック 院長就任