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化粧品の「〇〇フリー」信仰はやめて! “肌にやさしそう”だけで選んではいけない理由
「アルコールフリー」「パラベンフリー」「紫外線吸収剤フリー」「グリセリンフリー」——化粧品売り場やSNSでよく目にするこれらの言葉。なんとなく肌にやさしそうで、つい手が伸びてしまう方も多いのではないでしょうか。
スキンケアを診療の基本に置く美容外科医として、多くの患者さんの肌と向き合ってきた私が常日頃お伝えしたいことがあります。
「〇〇フリー」は万能ではない、むしろその成分が必要な人にとってはデメリットになり得る、ということです。
アルコールフリーのデメリット
エタノール(アルコール)は「肌を乾燥させる」「刺激になる」として敬遠されがちです。確かに、敏感肌や乾燥肌の方には刺激になる場合があります。
しかし、アルコールには雑菌の繁殖を抑える防腐効果、成分の浸透を助ける効果、さっぱりとしたテクスチャーの実現といった重要な役割があります。アルコールを抜いた分、別の防腐剤を増量せざるを得ないケースもあり、「アルコールフリー=低刺激」とは一概に言えません。また、皮脂分泌が多い脂性肌の方には、アルコールによる適度な収れん効果が肌コンディションの維持に役立つこともあります。
パラベンフリーのデメリット
パラベンは長年、化粧品の防腐剤として安全性が確認されてきた成分です。「発がん性がある」「ホルモンバランスを乱す」といった情報が広まりましたが、現在の科学的見解では化粧品に使用される濃度において安全性に問題はないとされています。
パラベンフリーにすると、その代替として別の防腐剤(フェノキシエタノールなど)が使われます。これらが肌に合わない方もおり、「パラベンフリー=安全・低刺激」という図式は必ずしも成り立ちません。むしろパラベンの方が長年の使用実績があり、安全性データが豊富という見方もできるのです。
紫外線吸収剤フリー(ノンケミカル)のデメリット
紫外線吸収剤は化学反応で紫外線をカットする成分で、敏感肌の方に刺激を与えることがあるのは事実です。ただし、その代替となる紫外線散乱剤(酸化チタン・酸化亜鉛)にも注意点があります。
白浮きしやすく、塗り直しが面倒なため、結果的に日焼け止めを塗る量が減ってしまうことが少なくありません。日焼け止めは規定量を塗ってはじめてSPF・PA値通りの効果を発揮します。塗りにくい=塗らなくなる、という本末転倒な状況に陥るくらいなら、肌に問題のない方は使い心地のよい吸収剤入りを選ぶほうが、紫外線対策の観点からはより現実的な選択肢になる場合もあります。
グリセリンフリーのデメリット
グリセリンは高い保湿力を持つ成分として、多くの化粧品に配合されています。SNSでは「グリセリンは乾燥した環境では空気中から水分を集められず、逆に肌の内側から水分を引き出して蒸散させてしまう」という説が広まり、グリセリンフリーを選ぶ方が増えました。
理屈としては一見筋が通って聞こえます。グリセリンには水分を引きつける「吸湿性」があるのは事実だからです。
しかし実際には、化粧品に配合される濃度ではこの現象は問題になりにくく、そもそも化粧品はグリセリン単体で使うものではありません。油分などのエモリエント成分と組み合わせて設計されており、水分の蒸散を防ぐ構造になっています。
さらに「グリセリンはニキビ菌(アクネ菌)の餌になる」という説も耳にしたことがある方がいるかもしれません。アクネ菌がグリセリンをエネルギー源として利用できるのは事実で、この説を完全なデマとは言い切れません。
ただし、見落とされがちな重要なポイントがあります。「美肌菌」と呼ばれる表皮ブドウ球菌も、同じようにグリセリンを利用できるのです。そして表皮ブドウ球菌はグリセリンを代謝する過程で脂肪酸と乳酸を産生します。この脂肪酸はアクネ菌の増殖を抑え、乳酸は肌を弱酸性に保つ働きをします。つまりグリセリンが美肌菌の働きを助け、結果的にアクネ菌を抑制する方向に働く可能性があるという研究もあるのです。
ニキビの原因は皮脂・毛穴の詰まり・炎症・ホルモンバランスなど複合的なものであり、「グリセリンを使ったからニキビが増える」とは言えません。グリセリンは安全性と保湿効果のバランスが優れた成分です。一面的な情報に惑わされて、わざわざ避ける必要はないのです。
「フリー」に惑わされないために
「〇〇フリー」表示は、特定の成分に反応しやすい方への配慮として意味があります。しかし「フリー=肌にやさしい=誰にでも良い」ではありません。
大切なのは、自分の肌質・肌悩みに合った成分を選ぶこと。なんとなくのイメージや不安をあおるマーケティングに流されず、成分の役割を正しく理解した上で選んでほしいのです。
肌のことで迷ったときは、ぜひご相談ください。
あなたの肌に本当に必要なものを、一緒に考えましょう。
ひとりごと。
食品のアレルギー表記を思い浮かべてください。「小麦使用」「そば使用」——これは小麦アレルギーやそばアレルギーの方にとって、文字通り命に関わる大切な情報です。その表記があるから、アレルギーの方は安全に食品を選べる。素晴らしい仕組みです。
でも、アレルギーのない人はどうでしょう。そばが入っているからといって、そばを避けますか?避けませんよね。「自分には関係ない情報」として、ごく自然にスルーしています。
化粧品の「〇〇フリー」も、同じようなもの。
アルコールに反応する方には必要な情報。パラベンが合わない方には重要な情報。でも——そうでない大多数の人にとっては、関係のない情報なんです。
アレルギーのある人とない人、どちらが多いと思いますか?圧倒的に「ない人」です。化粧品も同じで、特定成分に反応する方はむしろ少数派。
それなのに多くの方が「フリーの方が安全そう」というイメージだけで、自分には必要のない制限を自らかけてしまっています。
自分で自分の選択肢を狭めて、成分の恩恵をみすみす手放している。
私はこれを、本当にもったいないと思っています。
執筆者:西記念神戸アカデミア美と健康のクリニック院長 木谷慶太郎


