美容コラム
-
- サプリメント
- しみ
- しわ
- その他
- 健康
- 美肌
エビデンスの読み方で変わる美容の常識|筋肉・コラーゲン・ビタミンCの真実

「エビデンスがある」は本当に正しい?美容と健康の“文脈”を読む力
最近、「エビデンス(科学的根拠)」という言葉は広く知れ渡るようになりました。
医者はエビデンス命です。エビデンスしか勝たん。エビデンスによって治療方法が決まります。
美容や健康に関する情報も、研究結果を根拠に「これが正しい」「あれは間違い」と断言されることが増えました。
けれども、医師として感じるのは──エビデンスは“条件付きの真実”であるということです。
わたしは勤務前にジムで運動することがあります。以前から朝食を食べる習慣がなく、食事を抜いた状態で運動しています。そのことを周囲に話すと『運動前には食事撮らないとダメ。エネルギー取っておかないと、運動しても筋肉つかないよ。筋肉壊れちゃうよ。』と言ってくる人がとても多いのです。
もちろん、エネルギーがない状態だと筋肉を分解してエネルギーを作り出すことも知っています。エネルギー摂取なしで運動した場合に筋肉分解が進むというエビデンスがあることも知っています。
『運動前に食事をとらないと筋肉が壊れる』はエビデンスあります。でも切り取りになってしまっていて、多くの人にとってはウソになのです。
「食事を抜いて運動すると筋肉が壊れる」
高強度トレーニングを行うアスリートでは筋分解を促すという報告があります(Areta JL et al., J Physiol, 2013)。
空腹時にはエネルギー源が少なくなり、筋肉内のたんぱく質が分解される経路が働くためです。
しかし、一般の方にとっては事情が少し異なります。食事からのエネルギーが不足した場合、まず蓄えられたグリコーゲン(肝臓や筋肉に蓄えられたエネルギー)が使われます。グリコーゲンが枯渇した場合に、筋肉の分解が起こる可能性がありますが、体には脂肪を分解してエネルギーを作る経路など他の方法もあるため、食事を抜いて一般的な運動をした程度で筋肉が壊れることはほとんどありません。
グリコーゲンは肝臓や筋肉に合わせて1000kcal以上蓄えられています。この量を消費する運動は、一般の方にはまず起こりません。そのため、「筋肉が壊れる」というエビデンスは正しいものの、その対象は高強度トレーニングを行うアスリートであり、一般の人に当てはめるのは誤解です。
美容や健康の分野では、このような「対象を間違えた解釈」がよく見られます。正しい情報を理解することが大切です。
コラーゲンを飲むと肌がぷるぷるになる?
「コラーゲンを飲むと肌にハリが出る」という話もあります。
経口摂取されたコラーゲンがそのまま肌に届くわけではなく、体内でペプチドやアミノ酸に分解され、その一部が線維芽細胞を刺激する可能性があるという研究があります(Proksch E et al., Skin Pharmacol Physiol, 2014)。
ただしこれは閉経後女性69名を対象とした研究です。
対象が閉経後の女性ということで比較的年齢は高めです。若年層と比較して体内に存在するコラーゲン量やホルモンの影響など大きな違いがあるので、若年層にも同様な効果があるとは限りません。しかも、この研究で統計学的には有意な差(偶然ではなく本当に効果があると認められるということ)がありますが、臨床的にはわずかな差なんです。
「部分的に正しいが、一般化しすぎると誤解になるおそれがある」という典型例です。
ビタミンCを大量にとると美白になる?
ビタミンCにはメラニン生成を抑える作用や抗酸化効果があり、美白成分としても有名です。
しかし、経口摂取の場合は血中濃度がすぐ飽和するため、必要以上に摂っても吸収率は下がります(Levine M et al., Proc Natl Acad Sci, 1996)。
多くの方には1日1000mg程度で十分で、それ以上摂っても尿に排泄されることが多くなってしまいます。
「高用量でより白く」は科学的には誤りです。
むしろ、紫外線対策とバランスの良い食事のほうが確実な美肌への近道です。
ファスティングで“デトックス”できる?
断食(ファスティング)も人気ですが、「毒素を出す」「肌がきれいになる」という表現には注意が必要です。
断続的断食(intermittent fasting)は体脂肪減少やインスリン感受性の改善に効果があるという報告はあるものの(Patterson RE et al., Annu Rev Nutr, 2017)、
「体内の毒素を排出する」という根拠はありません。
肝臓や腎臓がしっかり働いていれば、それが本来の“デトックス”機能です。
美容効果というよりは、食生活のリセットによる間接的な効果と考える方が自然です。
美容も、エビデンスの“背景”を読む時代へ
どの分野にも共通しているのは、「エビデンスがある」という言葉の裏に“誰を対象にした研究か”という前提があること。医者を含め科学者たちは論文や研究の結果だけを見ることはありません。その研究は男性対象なのか女性が対象なのか、年齢はどれくらいなのか、結果に影響がでる因子を完全に遮断しているのか、などなどいろいろな条件も必ず読みます。
条件を無視して結果だけを信じてしまうと、逆に健康や美容を損なうこともあります。
美容医療を行う立場として感じるのは、
これからの時代は「科学的根拠を知る」だけでなく、“その文脈を読む美意識”が大切だということ。
切り取りは誤解を生んでしまいます。
流行や広告に流されず、情報の背景を理解できる人こそ、
内側からも外側からも美しくなれるのではないでしょうか。
執筆者:西記念神戸アカデミア美と健康のクリニック院長 木谷慶太郎

日本形成外科学会 形成外科専門医
日本美容外科学会JSAPS 正会員
日本創傷外科学会会員 正会員
日本レーザー医学会 正会員
日本抗加齢医学会 正会員
アラガン社 VST(ボトックスビスタ)認定医
アラガン社 ヒアルロン酸バイクロスシリーズ注入認定医
経歴
2010
長崎大学医学部医学科卒業
2010
六甲アイランド甲南病院 初期臨床研修
2012
小野市民病院形成外科(現:北播磨総合病院)
2013
姫路赤十字病院形成外科
2014
神戸大学医学部付属病院形成外科
2020
西記念神戸アカデミアクリニック
2023
ルネッサンス美容外科神戸院 院長
2025
西記念神戸アカデミア美と健康のクリニック 院長就任
